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  • 執筆者の写真Yuko NITTA

スタッフの内定は取り消せるか



サロンのスタッフ の採用内定を出したけれども、さまざまな事情によって内定を取り消したい という場合どうしたらいいでしょうか 。


内定とは何か


内定とは、判例上、採用内定によって労働契約が成立するが、使用者には一定の解約権が留保されているという「始期付解約権留保付労働契約」であると考えられています。つまり内定を出すことによって、少し特別な労働契約が成立するということです。内定でも一種の労働契約が成立しているということをまず理解しましょう 。


皆さん内定を出す際にはどのような手続きをとっていますか 。たまに口頭で伝えるだけ、という方もいらっしゃいますが、私は、内定の取り消し事由を記載した誓約書を準備し内定者に署名捺印をしていただくことをおすすめしています。内定の取り消し事由とは例えば以下のようなことです。


  • 履歴書その他の申告事項が 事実と相違していたとき

  • 心身の故障により勤務に耐えられないと認められるとき

  • 美容師免許を取得できなかったとき

  • ネイル検定試験に合格しなかったとき

  • 会社の経営上やむを得ない必要があるとき

  • その他前各号に準ずる事由があるとき


なお、妊娠したことを理由に内定の取消しはできないと考えられていますので、詳しくは「スタッフ採用面接で聞いてよいことと悪いこと」をご覧ください 。


 

内定の取消しはどのような場合に認められるか


次に、内定の取り消しが適法といえるためには、判例上「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないことが合理的であって、解約権留保の趣旨 目的に照らして 客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる」ものであることが必要とされています(最高裁昭和54年7月20日判決)。つまり、誓約書記載の事由に該当したら即、内定取り消しができるわけではなく、客観的に合理的で社会通念上相当かを改めて検討する必要があります。一般的に、資格が取得できなかったり、検定試験に合格しなかったり、健康上の理由で勤務に適しなくなった場合には、客観的に合理的で社会通念上相当といえる場合が多いと思われます。


他方、経営悪化による内定取り消しの場合には、整理解雇に準じた要件が必要になり、①人員削減の必要性、②内定取り消しの回避努力、③人選の合理性、④手続きの妥当性を総合考慮し、客観的に合理的と認められ社会通念所相当な場合にのみ内定取り消しが認められることになります 。新型コロナウイルスの感染拡大によりサロンの売り上げが低下するなど経営状況が悪化し内定を取り消さざるを得ない場合でも「新型コロナウイルスの感染拡大の影響による経営の悪化」などという抽象的な理由のみでは不十分で、決算書類上どのように財務状況が悪化して人員の削減が必要なのか、内定取り消しを回避するためにどのような努力をしたかなど、詳細に立証できる必要があります。また、新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから既に1年近くが経過しようとしていますので、これから出す内定については、新型コロナウイルスの拡大感染による想定外の人員削減の必要性という理由はより通用しにくくなると考えられます 。

 

内定取り消しの際の手続きはどうすればいいか


最後に、内定取り消しの手続きについては 30日前の解雇予告(労働法第20条)は不要だと考えられています。したがって、一般的には、内定取り消しの通知を書面で郵送し、内定取り消しの事実を伝えることが多いです。もちろん、個別に電話するなどして、詳しく事情を説明できればより望ましいです。なお、新規学卒者に対する内定取り消し、内定期間延長をする場合には、あらかじめ所轄の公共職業安定所長または学校長など関係施設の長にその旨を通知する必要があります(職業安定法第54条、職業安定法施行規則第35条1~3項)。新規学卒者とは、基本的に、中学校、高校、大学、短大、専門学校等の新卒者をいいますので、まつげエクステンションスクールやネイルスクールはこれに含まれませんが、専門学校生等を採用する場合には対象になりますので、このようなルールがあることも知っておきましょう。

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