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  • 執筆者の写真Yuko NITTA

成人式中止による美容室キャンセル。法律上キャンセル料を請求できるか。



2021年1月7日、1都3県を対象に緊急事態宣言が出されました。神奈川県では、33市町村のうち、16市町村が、11日の成人の日に合わせた式典の会場開催を断念したそうです。

 

新成人からは、残念がる声が聞かれる。5日にオンライン開催への変更を決めた鎌倉市で、市成人のつどい実行委員を務める石井美優さん(20)は「本来なら式典後、みんなで鶴岡八幡宮にお参りしたかった。今年中にコロナが終息し、みんなで写真だけでも撮りたい」と話す。SNSでは「成人式中止、もっと早く言ってほしかった」「延期で美容室のキャンセル料発生」といった書き込みも目立つ。


2021年1月8日読売新聞オンラインより引用

 

成人式当日は着付け・ヘア・メイクアップを予約する方が多いので、影響を被った美容室も多いと思います。


このような場合、美容室としてはお客様にキャンセル料を請求できるのでしょうか?成人式が中止になった以上、やむを得ず、請求できないのでしょうか?今回は、美容室側の立場から説明してみたいと思います。


キャンセル料を請求できるか否かは、原則として、契約の内容によります。例えば、契約に「7日以内のキャンセルの場合、キャンセル料として、●●円を頂戴いたします。」などと記載があれば、キャンセル料を請求できます。逆に、「成人式が市町村の正式な決定により中止となった場合には、お客様は、キャンセル料を支払うことなく予約をキャンセルすることができます。」という規定があれば、キャンセル料は請求できません。契約の文言はよく検討する必要があり、上の例の場合、成人式がオンライン開催に変更になった場合には、中止にはなっていないので、キャンセル料を請求できます。


美容関係の取引においても、契約の存在は非常に重要です。予約の際に契約書を締結するのは仰々しくてできない、と思われた方もいるかもしれませんが、約款や承諾書のような形でも構いません。キャンセル料を含めた重要なルールを記載したペーパーに承諾した旨のサインをいただく、オンライン予約の場合には承諾ボックスにクリックしてもらうなどの対応でも法的には契約となります。


なお、キャンセル料の額ですが、過大すぎるものは許されません。「平均的な損害」の額を超える部分は無効になります(消費者契約法第9条1号)。いくらが「平均的な損害」かは、ケースバイケースで判断されますが、多くの裁判例は逸失利益まで認めています。逸失利益とは、キャンセルにならなければ得られたであろう売上から、キャンセルにより不要となった経費を引くものです。よって、お客様一人の売上が10,000円で、使用を免れた商材代金が500円だとすると、9,500円です。したがって、この例だと、9,500円までのキャンセル料なら許されますが、キャンセル料を2万円などしてしまうと、超過した10,500円は無効になります。


 

最後に、成人式が中止になった以上、これは不可抗力ではないか?お客様から、キャンセルはやむを得ない事情なので、キャンセル料は支払わないと言われたらどうするか?という疑問についても考えてみたいと思います。


民法上は、双方に責任がない事由(不可抗力)が原因で、義務の履行ができなくなった場合、顧客側は、反対給付(サービス料やキャンセル料の支払い)を拒んだ上で、契約を解除することができます(民法第536条1項、第542条1項)。よって、契約があった場合でも、不可抗力でキャンセルした場合には、キャンセル料の支払は不要です。


成人式の中止による美容室のキャンセルでこの条文を使えるか否か、ここは、裁判例もないので、あくまで私個人の解釈ですが、お客様側はこの主張はできないと考えます。成人式というのは、あくまで、今回の着付け・ヘア・メイクというサービスを受けるための目的に過ぎません。成人式が中止になったとしても、美容室は着付け・ヘア・メイクのサービスを提供することはできます。美容室としてサービス提供義務が履行できなくなったわけではない以上、この条文が想定する場面ではないと考えます。


美容業界においても、このような何が起こるか分からない時代である以上、きちんとした契約をすることは、今まで以上に重要になっています。お客様にとっても、どのような場合にキャンセル料が発生するのかを予め示しておいた方が誠実といえるでしょう。


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