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執筆者の写真Yuko NITTA

タトゥー事件最高裁決定とアートメイク


令和2年9月16日、医師法違反で起訴されたほ彫り師の方について、最高裁で無罪が確定しました。


これは、大阪の彫り師の方が、2014年7月から2015年3月までの間に、大阪府吹田市内のタトゥーショップで、4回にわたり、3名に対して、タトゥー施術行為を行ったことについて、「医師でなければ、医業をなしてはならない」と規定する医師法17条に違反したとして起訴された事件です。

 第1審の大阪地裁はこの彫り師の方を有罪としましたが、第2審の大阪高裁は、タトゥー施術は医行為といえないとして無罪を言い渡していました。これに対し検察官が上告したのが、本件です。


医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない。と規定しており、「医業」とは、「医行為」を反復継続する意思をもって行うことであると解釈されています。本件では、これを前提として、「医行為」とは何かが問題になりました。


これについて、いままでの行政解釈では、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と解釈されていました。しかし、今回最高裁は、「医療及び保健指導に属する行為」という条件を追加して、医行為とは、①医療及び保健指導に属する行為のうち、②医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為とをいう、と判断しました。


そして、ある行為が医行為に当たるか否かを決めるには、当該行為の方法や作用のみならず、その目的、行為者と相手方との関係、当該行為が行われる際の具体的な状況、実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で、社会通念に照らして判断するのが相当である、と判断しました。


その上で、タトゥー施術については、(1)装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義がある社会的な風俗として受け止められてきたものであって、医療及び保健指導に属する行為とは考えられてこなかった、(2)タトゥー施術行為は、医学とは異質の美術等に関する知識及び技能を要する行為であって、医師免許取得過程等でこれらの知識及び技能を習得することは予定されておらず、歴史的にも、長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情があり、医師が独占して行う事態は想定し難い、という分析を加え、①医療及び保健指導に属する行為とはいえないので、医行為には該当しないと判断しました。


ここで一つ注意があります。タトゥーは医行為でないと判断されましたが、アートメイクは同じではありません。


実は、第2審である大阪高裁は、判決中でアートメイクに言及しています。


 検察官は,答弁書において,入れ墨と同様に人の皮膚に針を用いて色素を注入する行為態様であるアートメイクの事案は,これまで多数件が医師法違反として問題なく処罰されているが,これは,入れ墨と同様,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為とされているからであり,このことは既に確立された法解釈といえ,原判決の法解釈・処理と整合するものであると主張する。

 アートメイクの概念は,必ずしも一様ではないが,美容目的やあざ・しみ・やけど等を目立ちづらくする目的で,色素を付着させた針で眉,アイライン,唇に色素を注入する施術が主要なものであり,その多くの事例は,上記の美容整形の概念に包摂し得るものと考えられ,アートメイクは,美容整形の範疇としての医行為という判断が可能であるというべきである。後にみるように医療関連性が全く認められない入れ墨(タトゥー)の施術とアートメイクを同一に論じることはできないというべきである。

検察官の主張は、要するに、アートメイクは医師法違反だという解釈が確立し、実際に処罰されているのだから、同じ行為態様であるタトゥーも当然医師法違反で違法だ、というものでした。しかしながら、大阪高裁は、アートメークは美容整形として医行為に該当するが、タトゥーはそれとは異なると判断しました。


行為態様が類似するアートメイクとタトゥーを比較し、前者は医行為、後者は医行為でないと判断しているところは興味深いです。この差を生んだのは、一言でいうと、社会通念、つまり、アートメイクは、個人的、主観的な悩みを解消、心身共に健康で快適な社会生活を送りたいとの願望にこたえる医療である美容整形の一部であるのに対して、タトゥーはこのような医療関連性はなく、むしろ美術的な意義がある社会的風俗である、という理解です。


このように、本最高裁決定で、タトゥーは医行為でないことが確定しましたが、アートメイクはそうではありません。むしろ、大阪高裁の判決の中では、アートメイクは医行為であることが前提の議論がされていますので、この点は、おさえておきましょう。


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